・・・ふぅ。やっと、任務が終わった。


「大丈夫か、ロマーリオ。」

「えぇ。ボスの方は?」

「まぁ、大した怪我はない。」


まったく、こんな任務に手古摺るとは。
敵のアジトは広く、また侵入が困難な造りになっていた。だが逆に、アジト内の敵数は少なく、軍事力も大して無かった。それでも、万全の対策を練るため、俺達はある程度調査をし、その広さをカバーするため、ボスである俺を含め、かなりの人数で任務に挑んだ。


「まさか、あの奥に、まだ隠し通路があったとはな。」

「すいません、ボス。」

「いや、お前らを責めてるわけじゃない。それに、俺の指示も悪かったってことだろう。」


俺は苦笑混じりに、そう答えた。
スパイも送り、ほとんど把握できていると思っていた。もちろん、スパイに入れた奴が上層部につけるわけはないから、アジト全てを知ることは無理だと考えていた。しかし、奥の隠し通路の先にあった部屋の数々、そしてそこにいた精鋭たちの戦力は予想以上だった。


「まぁ、全体的には、敵数と戦力が予想より遥かに下回っていたから、こっちの被害は少なく済んだけどな。」


しかし、この予想も、こちらの都合が良い方に間違っていたから良かったものの、悪い方であったら、一大事だ。・・・今回の任務は、反省点が多くなりそうだ。
そう考えつつ、俺達は自分達のアジトへ帰った。そして、任務が少し長引いてしまったため、疲れが溜まっていた俺は、すぐに自分の部屋へ戻ろうとした。
だが、その前に。部屋で休むよりも、もっと癒される場所へ俺は向かった。


「まぁ、もう寝てるとは思うけど。」


そう呟きながら、俺は一応、目の前のドアをノックしたが、案の定、返事は無かった。
俺は、寝ているであろう彼女を起こさぬよう、なるべく静かに部屋へ入った。


「・・・・・・?」

「・・・すぅ・・・すぅ・・・。」


傍に寄り、小さな声で愛しい名前を呼ぶ。だが、やっぱり、は寝ていて、静かな寝息を立てていた。

は、俺の弟分であるツナと同じ学校に通っていて、その関係で知り合った。・・・まぁ、巻き込んじまったという言い方もできなくはないが。
とにかく、それからしばらくして、お互いに惹かれ合って、付き合うようになった。正直、当時はも中学生だったし、周りにはいろんなことを言われた。「あんな普通の女の子をマフィアの世界に巻き込むなんて」というまともな意見から、「ボス・・・。年下が好みだったんすね・・・」という少し間違った意見まで。(いや、そりゃあ、は年下だし、年下でも構わないのは当然だけど。別に、年下がいいというわけじゃない。だから、年なんて関係ないということだ。・・・決して、そういう趣味があるわけじゃない。)
だけど、は日本の高等学校を卒業後、こっちに来ることを決意してくれ、俺もそれを受け入れた。周りも、それまで一途に想ってくれていたの気持ちが真剣なんだとわかり、彼女が自分で決意したのなら、と認めてくれた。
最初は、同じアジトに住むのは危険が伴うと考えもしたが、俺の大事な存在だとわかれば、それはどこにいても同じだと思い、俺が自ら守ることができるようにと、結局同じ屋敷に住んでいる。もそれでいい、むしろそっちがいいと賛成してくれた。

だが、俺もこのキャバッローネファミリーのボス。仕事もいろいろあって、とは滅多に会えない。それでも、昔はが日本で、俺がイタリアにいることが当たり前だったから、それから比べるとマシだとは思うようにしている。
とは言っても。本当は、もっと会いたいし、もっと声を聞きたい。今日だって、早く任務が終われば、と話だってできたかもしれないのに。そんな風に考えてしまう俺は、まだまだガキなのかもしれないな。でも、きっとも同じように思ってくれていると思う。


「・・・ごめんな。あまり会えなくて。」


また、小さく呟いて、俺はの頭をそっと撫でた。


「・・・ん〜・・・・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・。」


がそれに少し反応した。慌てて、手をどかした・・・が、起きはしなかったようだ。・・・良かった。
と思いつつ、少し残念に思っている自分がいるのも確かなんだけどな。
でも、の眠りを妨げるわけにはいかない。そう思って、俺はまた静かにの寝顔を見ていた。


「・・・すぅ・・・すぅ・・・。」


気持ち良さそうに寝ているを見ていると、俺は無意識にの額にキスをしていた。
・・・ヤバイな。今のは、本当、無意識すぎた・・・。でも、それだけ、が可愛くて、愛しかったんだ。


「・・・んん〜・・・。・・・・・・・・・・・・。・・・・・・ディーノさん?」

「悪い。起こしちまったか。」

「いえ・・・。大丈夫です。」


そう言いながら、は起き上がってくれた。
結局、起こしてしまって、悪いと思いながらも、嬉しく思っている俺を、許してくれよ?


「任務、終わったんですか?」

「あぁ、何とかな。」

「皆さん、ご無事ですか?」

「大丈夫だ。こっちの被害は、ほとんどなかった。」

「それは、何よりです。」


少し眠そうに、目をこすりながらも、そんな質問をし、ファミリーの無事を聞いて、嬉しそうに微笑むなんて。やっぱり、はある意味、マフィアに向いている。・・・いや、“マフィア”というより、“俺達のファミリー”に欠かせない存在だ。


「あ!すみません。言うの遅れました。・・・おかえりなさい、ディーノさん。」


ようやく、目が覚めてきたのか、喋る早さと表情の豊かさが普段のに戻ってきた。
何だか、それも少し懐かしく感じるほど、会ってなかったよな。・・・なんて、実感してる場合じゃない。俺は、の眠りを邪魔しに来たわけじゃないんだ。


「ただいま、。・・・それで、起こして、悪かったな。」

「大丈夫ですよ。それに、私も心配してたんです。だから、こうして、一目見れて良かったです。」

「その割には、結構、気持ち良さそうに寝てたけどな。」

「それは、ディーノさんと、このキャバッローネファミリーの力を信じてるからですよ。」


俺の冗談にも、ちゃんと返せるぐらい、はすっかり起きちまったみたいだ。・・・本当、悪い。


「でも、心配なものは心配なんです。だから、これからは、私が寝てても起こして、帰ってきたって報告してください。」


・・・・・・あぁ、なんて可愛いことを言ってくれるんだ。
俺は思わず、を抱き締めた。


「ディ、ディーノさん・・・?!」

「ありがとな。も何かあったら、いつでも俺の部屋に来てくれていいからな?」

「そ、それは・・・、お仕事の邪魔になりますよ?」

「いいんだよ。」

「よくないですって!」


俺を注意するように、少し怒り気味で言うが本当に愛しくて。
俺は、を抱き締めながら、少し笑った。


「ディーノさん・・・?」

「ん〜・・・、やっぱ、ありがとな。が待っててくれるから、俺は任務を失敗せずに帰れるんだと思う。」

「・・・少しはお役に立ててるようで、よかったです。」


その声を聞いて、顔を見なくても、は照れながら言ってるんだろうなぁ、とすぐにわかった。
そう考えると、その表情を見たいという衝動にもかられたが、俺はもっと照れさせてやろうかなんて、ちょっと意地悪な考えをした。
・・・本当、こういうとこがガキだよな。


「なぁ、。今日は、ここで一緒に寝てもいいか?」

「えぇ・・・!!そ、その・・・たしかに、ベッドは大きいですけど・・・。ディーノさんはちゃんと部屋で休んだ方がいいんじゃないですか?」


照れながらも、真面目に答えるが本当面白くて。


「悪い、冗談だ。」


そう言って、俺は笑いながら、から離れた。
・・・やっぱり、照れた顔も可愛い。


「もう・・・!からかわないでくださいよ・・・!!」

「いや、本音としてはそうしたいのは山々なんだが・・・。まだ少し仕事があるからな。」

「そうなんですか?じゃあ、早く済ましてしまって、早く休んだ方がいいですね。すみません。長々と引き止めてしまって・・・。」

「何言ってんだよ。ここにいたのは俺の意思だし、むしろ、俺の方こそ眠ってるところを邪魔してごめんな?」

「いえ、それは全然気にしてません。むしろ、その方が嬉しいので。」

「じゃあ、俺も全然気にしてないってことで。俺も嬉しいから。」

「・・・はい、ありがとうございます。」

「こっちこそ、ありがとう。じゃあ、おやすみ。」

「はい、おやすみなさい。」


本当に名残惜しいけど、今日の任務の報告書も仕上げなくちゃならない。特に、今日の任務は反省点が多いから、時間がかかりそうだ。だから、を一目見れて、本当によかった。これで、俺も頑張れる。
そう思いながら、俺は部屋のドアを開けようとした。が、ドアはほんの少ししか開かなかった。これは一体・・・?


「ディーノさん?どうかしましたか?」

「いや、ドアが開かないんだ。」

「え?でも、さっきは・・・。」


そう、俺が入って来るときは、ちゃんと開いた。ということは、壊れているわけではなさそうだ。ドアの前に何かがあるのか・・・?


「おい、誰かいるか?」


俺は、外に向かって声をかけた。すると、声が返ってきた。誰かはいるようだ。ただ、俺に対しての返事ではなかった。


「いやぁ、今日の任務は楽勝だったっすね!!」

「本当だよなぁ!」

「たしかに時間は掛かったっすけど、まだまだ体力はありますよ!」

「俺もだぜ。・・・よし、ボスの代わりに俺たちで報告書でも書くか!!」

「いいっすね!賛成っす!!」

「おし、張り切って行こうぜ!」

「うす!!」


そんな会話のあと、2人分の走り去っていく足音が聞こえた。


「アイツら・・・。」


絶対、ここで盗み聞きしてやがった。・・・まぁ、仕方がない。今回は、大目に見といてやる。


「・・・悪い、。本当に出れないみたいだ。」

「というか、さっきのは・・・。」

も聞こえたか?」

「はい。・・・わざと私たちに聞こえるように、って感じでしたよね??」

「たぶん、な。ってわけで、本当に悪いけど、アイツらの厚意に甘えて、この部屋で寝させてもらってもいいか?」

「あ、はい!どうぞ。・・・私はさっきまでここで寝てたので、どうぞ。私はこっちで寝ますね。」


そう言って、はベッドを俺に譲り、ソファの方へ向かおうとした。


「いや、ちょっと待って。それは悪いから。俺がそっちでいいって。」

「でも、任務でお疲れですよね?だったら、ベッドでちゃんと休んだ方が・・・。」


結局、お互いにベッドを譲ろうとした。・・・よし、仕方がない。


「じゃ、2人でここに寝るか。」

「えぇ?!だから、私はこっちでいいですってば!!」

「でも、俺もそっちでいいって言ってるけど、は聞かないし。」

「当たり前です・・・!!」

「だったら、2人の意見を合わせるには、2人がベッドで寝るしかないだろ?」

「そ、それは・・・。」


反論できなくて困っている姿も可愛いけど、別に困らせようと思って言ったわけじゃない。・・・今回に限っては、だけど。


「俺だって、をソファに寝かせて、自分だけベッドで寝るなんてことはできない。それはも一緒だろ?」

「・・・はい。でも、一緒でも・・・余計に寝れないです。」

「ま、それは気にするな。」

「気にしますって!!」

「あぁ、やばい・・・。そろそろ疲れてきたな・・・。」

「あ、すみません!じゃ、どうぞ。」

「で、もここ、な?」

「・・・・・・・・・わかりました。」


最終的にの優しさを利用する作戦に出たら、見事に成功。
やっぱり、優しいよな。


「ありがとな。」

「・・・いえ。私も・・・緊張はしますけど・・・・・・嬉しいので。」


かなり恥ずかしそうなが本当に可愛くて、また抱き締めたくなったが、ここでそんな行動に出たら、絶対は更に恥ずかしがって、もう一緒に寝てくれなくなるだろうから、我慢した。
その代わり、俺はの頭を撫でながら言った。


「おやすみ。」

「はい。おやすみなさい。」


俺だって、全く緊張しないわけではない。自分のベッドに1人で寝る方がよっぽどよく眠れるだろう。それでも、といる方が元気も出るし、癒される。だから、今日ぐらい、こうしてみるのもいいんじゃないか?
それに、が横にいるのなら、今日はいい夢も見られそうだしな。













 

懲りずに、またもやディーノさんです(苦笑)。
でも、やっぱりキャラ掴めてません・・・。ごめんなさい。
ロマーリオさんとかも書けないので、途中でオリキャラっぽいのを出しちゃいました;;

設定としては、一応、「I withdraw previous retraction.」の4〜5年後ってことなんですけど、特に繋がりとかは無いので、シリーズにはしませんでした。

('08/02/11)